「詩的空間の中の小ツアー(Un petit tour dans l’espace poétique)」と題し、全10回の講座にちなんで10人の詩人を紹介し、その詩を内容的に連関させながら日本語訳付きで辿っていきました(この10人を全員授業でとりあげることはないかとは思いますが):

①デボルド=ヴァルモール(Marceline Desbordes-Valmore 1786-1857)

②ジャム(Francis Jammes 1868-1938)

③シュペルヴィエル(Jules Supervielle 1884-1960)

④ルメール(Jean-Pierre Lemaire 1948-)

⑤タピ(José-Flore Tappy1954-)

⑥エベール(Anne Hébert 1916-2000)

⑦ジャコテ(Philippe Jaccottet 1925-)

⑧一茶(1763-1828)

⑨ペリエ(Anne Perrier 1922-2017)

⑩リルケ(Rainer Maria Rilke 1875-1926)

半数が20世紀後半の作品になりました。今現在も書き続けている詩人もいます。また4人が女性で、うちスイスの人が2人、1人はカナダ人(講座名を「フランス詩」でなく「フランス語の詩」にしたゆえんです。ご存知ない名前ばかりでも心配無用です、大学の仏文学の先生でもこのうち何人知っているでしょうか?)。一茶はモリス・コワイヨMaurice Coyaudという人の仏語訳で:

En ce monde nous marchons        この世界の中私たちは歩いてゆく

Sur le toit de l’enfer et regardons  地獄の屋根の上をそして見つめよう

Les fleurs             花々を (世の中は地獄の上の花見かな)

すごい訳です。一行目から2行目への行変えで読む人の足元と世界を一挙に宙にうかせてしまい、そして次の行変えで目の前に現れる«Les fleurs»。この訳者のやってのけた再創造こそ、詩の行為・詩という行為l’acte de la poésieそのものだと思います。

最後のリルケはドイツ語の詩人ですが、晩年にフランス語でも書いています:

Chemin qui ne mènent nulle part どこへも通じていない道

entre deux près,                  ふたつの牧場のあいだをいく、

que l’on dirait avec art            あたかも巧みに

de leur but détournés,            目当から逸れたように、

 

chemin qui souvent n’ont         しばしば

devant eux rien d’autre en face    その先で対面するのは他でもない

que le pur espace                 純粋な空間

et la saison.                      そして季節。

この一巡りun tourはこうして円を閉じず開いたままにしておきました。この先の道行はまだ決まっていません。道を辿るごとに丘の上や山の中腹、また崖の目の前に現れる澄みきった空(純粋空間)と、一茶の花々が咲きもする地上(季節)とを行き来できればいいなと思っています。

 

今週の420日(土)から講座スタートです。単発でも出席できます(一回2000円)ので、関心のある方はぜひ一度おこし下さいますよう。

(鈴木水守:mmsz-suzukimimori@yahoo.co.jp

paysage de muzot

Gérard de Palézieux, Paysage de Muzot  (1953) 

ジェラール・ドゥ・パレジウ、<ミュゾの風景>(1953年)

晩年のリルケが住んでいたスイス・ヴァレー州ミュゾの風景です。