Zeef Sternhell の三部作を読む人文ゼミ4(フランス・ファシズム論)は、9月13日(木)午後6時から始めます。以後、第2、第4木曜の午後6時からです。

ステルネル三部作とは:
1. Maurice Barrès et le nationalisme français, Bruxelles Editions Complexe ,1985,  A. Colin et Presses de la Fondation nationale des sciences politiques, 1972.
2. La droite révolutionnaire, 1885-1914. Les origines françaises du fascisme, Paris  Le Seuil, 1978, «Points-Histoire», 1981, «Folio-Histoire», 1997.
3. Ni droite ni gauche. L'idéologie fasciste en France, Paris Le Seuil, 1983, Bruxelles Editions Complexe, 1987.
この3巻の増補改訂版がまとめ,て2000年にFayardから出版されたものを指します。日本におけるまとまった研究書は深沢民司『フランスにおけるファシズムの形成』(岩波書店、1999年)があります。

生きている間に可能かどうかは分かりませんが、3巻読破を目指します。まず、ゼミでは入手しやすいEditions Complexe版をテクストにして、随時Fayard版を参照することにします。フランス語のできる方の積極的参加を期待しています。2003年の『出版ニュース』2月上旬号に載せた文章を再掲しておきます。この文章が掲載されてしばらくして私は個人的事情から研究活動から離れざるを得ず、今般野崎塾を開塾するにいたり、この研究へと立ち戻ることとなりました。

書きたいテーマ・出したい本

フランス・ファシズムと第三共和制

野崎次郎(思想史・フランス文学)

 フランスは第二次世界大戦中ファシズムと戦った「対独レジスタンスの国」として戦後長い間信じられてきた。確かに「ヴィシー政権」が存在したが、 それはドイツの傀儡政権で、例外的な「間違い」であった。ファシズムはフランスにとって「外来思想」にすぎず、フランス本来の文明(フランス革命や啓蒙思 想)とは無縁なものである。そのように信じられてきた。
 しかし一九七〇年代から八〇年代にかけて「ヴィシー政権」に関する研究が進み、「レジスタンスの国」とは違う「もう一つのフランス」ということが言い出 された。そしてそれに連動する形で「フランス・ファシズム論」の研究も進んだ。ファシズムはフランス文化と無縁ではないどころか、フランス・ヨーロッパ文化の必然的産物であるというのである。
 第三共和制の初期を揺るがしたブーランジスムにはすでに「ファシズムの萌芽」があり、その後のモーリス・バレスその他の系譜をたどればフランスはまさに ファシズムの宝庫である。「ヴィシー政権」は第三共和制末期の議会のもとで「正統性」を付与され、「国民革命」の旗印の下に「大衆」とともに「知識人」の 積極的な関わりのなかで誕生した。
 これらの二つの時期の研究をまとめてとらえるならば、その初期から末期にいたるまでフランスの第三共和制はファシズムに彩られていたことになる。しかもそれは「共和国の精神」(一七八九年のイデオロギー)との関連で誕生、発展してきたのである。ゼーフ・ステルネルの「フランス・ファシズム論」の要諦はそ の「自生論」にあるが、それにもまして重要な側面は、「左翼/右翼」という図式を疑問視しながら、ファシズムを左翼的伝統との関連において論じたことにあった。
 これは恐ろしい仮説だ。そして十分に検討に値する仮説である。それは「正義による断罪」が幅を利かせている日本の思想界においてはなおさらアクチュアルな問題である。

(『出版ニュース』2月上旬号、出版ニュース社、2003年2月1日発行)